いねむり ページ12
「……やべ、寝てた?俺」
『おはよう』
「マジごめん…あー…ジャケットもありがと」
『あはは、まだ寝てるでしょ』
あれからまた30分だった頃、寝起きでかすれた声。大きな欠伸を1つして、思い切り背伸びした。
「仕事、任せちゃったよね。ごめん」
『いいよ、疲れてたんだよきっと』
「…昼休み、はしゃぎすぎて」
『ふふ、見えてたよサッカーしてるの』
「まじ?声かけてよ」
『遠目で見えただけだったから』
声かけてよ、なんてサラッと言わないでよ。声掛けてもいいってことは…なんかちょっと期待しちゃうもん。
「Aにはダサいとこ見られたくないな」
『ダサいとこ?』
「シュート外すとか、ボール踏んでコケるとか、絶対見せたくねえもん」
『コケるとこ、見たいかも』
ふざけて答えると、やめなさいと頭をポンポンされた。
『〜〜〜……っ』
「ん?どした?」
『なっ、んでもない』
顔が一気に熱くなって、目を逸らした。あの日の感覚を思い出して、1人恥ずかしくなってバカみたい。
『……蓮くん、女の子の頭撫でなりするんだ』
「え?あー…なんか、したく…なった?」
『なんで疑問形なの』
自分でもわかんない。とシャーペンを握り直して、机のファイルへと向き合った蓮くん。
相変わらず何を考えてるか分からないけど、そんな所にも惹かれてしまうのが恋心。
そんな時間はあっという間に終わってしまって、委員会も下校の時間。見回りに来た先生に挨拶して、鍵を返した。…これで暫く、二人の時間はなくなるなあ。
校門まで歩く。先に見える桜並木は少しオレンジ色になった空に相まって、とても綺麗で。
「せっかくだし、一緒帰ろう」
少しだけ先を歩いていた彼が、そういって振り向いた瞬間。
強い春風が吹いて、花びらが散った。
そんな様子を、見て、凄いよと笑いながら指さす蓮くん。儚くて、美しくて、あまりにも無邪気な姿で。
「A、こっち」
思わず見つめていると、自分の隣側を指さした。斜め後ろを歩いていたけど、素直に並ぶ。
___蓮くん、好きです。
言えないまま抱えたこの気持ち。伝えたいけど伝えられない。
「A?」
『あっ、うん、何?』
「昨日さ、俺の先輩が___…」
他愛もない話をしながら、駅への道を歩いていく。終わらないで欲しいこの時間。
「じゃ、俺こっちだから」
『うん、またね』
そんな願いも届かずあっという間に駅。反対側のホームへ歩き出す彼の背中を、じっと見つめることしかできなかった。
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作者名:蒼 | 作成日時:2024年3月13日 9時